平成3年 8月31日

 朝方まだ夜が明けない時分、何かの気配にうっすら目をあけると、枕元にすその広がった白い布のかたまりのようなものが、こじんまりと静かに立っているというのはあまり気持ちの良いものではありません。しかし、小学生の子供がいる僕の家では、こんなことが時々おこります。それは、怖い夢を見ておきてしまった小さい人が、タオルケットと枕を持って、お父さんのふとんにもぐり込もうかどうか、ちょっと考えている姿なのです。そういう時って、おとうさんの方も、よほどのことが無いかぎり、なんとなく目がさめるよね。怖い夢を見た人は、そのあとお父さんの布団をほぼ独占して、もう一眠りし、今日も忙しいのに、朝早くおこされちゃったお父さんは、そのあといろんなことを考えながら、布団の片隅で時間を過ごすことになります。しょうがねぇなぁ。
 とは言え、こわいこともふくめていろいろ想像するのは、楽しいことだと思う。普通のときの体験を組み合わせて、思いもよらない状況のときの、自分の心の動きを思ってみるのは、練習しておいたほうが良いのではないかしら。
 本当のことをいえば、私はおっかながりやなのである。夜や暗いところは嫌いなのである。誰もいないプールで泳いでいると、どこからともなく「ジョーズ」がきて足の先をがぶりと食べられてしまうのではないかと鳥肌ができてしまう人なのである。空想好きの少年は、あまりにリアルなイマジネーションを持つ大人になってしまい、で、想像しておっかながるのである。
 ううむ、そうすると、お父さんがこわい夢を見たときには、誰の布団に行けばよいのだ?小学生の人の答えは、「私の所に来て良いよ」だったので、僕は、少し安心な気持ちになっています。