平成12年4月22日

 私は大人なので、少し魔法使いなのである。私だけではなく、大人はたいてい誰でも、少しは魔法が使えるものなのである。たとえば、最近、お日さまが少しでも顔を出している日には、美術館創作室の廊下の壁に、小さな丸い虹がかかる。えへん、この虹は、私が魔法でかけているものなのである。大変きれいに7色が見える小さい虹は、ときどきゆらゆらと動きながら、少しずつ壁の上を動いてゆく。ある時、私が、この虹をだす魔法をかけていたら、通りかかったどこかのお母さんに見つかってしまった。すると、そのお母さんは、「ほら、こっちに来て、齋さんが虹を作っているところを見なさい。ああやって、作るのねえ。」と、その子どもを呼んでしまったのだな。まったく。私は今、魔法をかけているところなんだってば。本物の大人なら、見ればわかるのになあ。
 毎日の生活を豊かにおくるために、子どもの頃に学んでおかなければいけない様々で膨大な情報のうち、どうすれば虹ができるのか、なんて事は、ま、どうでもいいことの一つかもしれない。どうすれば、なんて事は、必要になったときに、誰かに、そう美術館かどこかにでも、聞けばいい。大切なことは「うっひゃー! あそこに小さい虹がある!」と、ビックリすることのできる心を持つことなのだ。ビックリのない人生なんて、とてもつまんないと、僕は、思うんだがな。
 学校で理科の授業が始まれば、僕たちは、この世の中のほとんどのことは、たいてい魔法とは関係なく、成り立っていることを知る。しかし、だからこそ、僕たちは、ビックリという、理科とはちがうものの受け止め方が、大切であることを心に留めておきたい。ビックリしなければ、僕たちの知っている科学のほとんどが始まらなかったのだということをこそ、忘れないようにしたいものだと思う。