平成12年3月25日

 4月から小学生になる人たちが、お別れ遠足で美術館に来て、廊下に整列している。これまでよりは少し集団生活を意識しているのだろうか、遠くから聞いていると、なんだか軍隊の訓練のような号令が聞こえてくる。僕は、結構昔に少年をやっていたから、戦争ごっこや戦争映画は好きだ。みんなで力を合わせて目的を達成するとか、みんなの役に立つ行動とか、そういうのはかっこいいんじゃないかと思っている。しかし、どうも、いわゆる軍隊的なシステムというものは好きになれない。「集合、注目。」と始めるのと、「さて、そろそろ始めますか。」とみんなを見回すことは、どこか大切なところが違うように、僕には思える。
 映画や本では、たいてい、規則やシステムだけでは、作戦がうまく進まなくなってきたあたりから、物語は盛り上がる。若く、着任したての隊長が、規則や知識に従って次々命令を出し、それが現実とうまくかみ合わなくなってくる。経験豊かな軍曹が、今、目の前でおこっていることを、ていねいに注意深く観察して、適材適所に隊員を配置し、一番面倒なことは自分でかたづけて、危機を脱する。ううむ、ここんとこが、集団で行動するときの醍醐味なのではないかしら。
 たぶん、集団生活をするときに大切なことは、みんなが一糸乱れず同じ行動をする、できるようになる、ということではない。人間が集団で行動するときに一番大切なことは、一人一人が違うことを、その団体に属する一人一人が自覚し尊重し会うことなのだ。その上で、しかし、私たちは力を合わせて何事かを成し遂げられる。そういうのだったら、集団生活の練習をするのも、なかなか楽しいことなんだがなあと、昔、団体行動があまり好きでなかった僕は、思うのであった。