平成12年2月26日

 去年、僕の一番下の弟たちに赤ちゃんが生まれた。今年来た年賀状にも、子どもができました、や、大きくなりました、というお知らせが何通かあった。
 僕がこのコラムを書き始めて10年以上立つ。僕の子どもたちはもうほとんど大人で、仲良しではあるけれど、少しずつ、僕とかみさんから離れ始めている。このコラムは、子どもと大人の関係を見つめるエッセーとしてスタートし、最初の文は、70年代の終わり頃のニューヨークで、かみさんと一緒に、上の娘を自然分娩で生んだ体験を書いたものだった。そして、子どもはどんどん大きくなる。子どもと大人の関係は、ある時期から、親の意識とはほとんど関係なく、大人と大人の関係になってゆく。「お父さんのひとりごと」は、子どもたちを見つめたひとりごとのような、実は語りかけだったのが、最近では、遠くを見つめた頑固ジジイのたわごとのような、本当のひとりごとになってきてしまっている。よし、もうそろそろ潮時だ。子どもとの関係についてのお話は、誰かもっと適当な人にお願いした方がいい。そう、思い始めていた。
 生まれたばかりの赤ん坊を見ていると、そう思うこと自体が、実は今そこにある状況に対して、真剣に正直に対応する心構えをやめ始めていることなのではないか、ということに気付く。年齢的に大人になることとは別に、親と子という関係の状況は、歳によって変わるというものではない。そこにあるのは、先輩としての人間と、今、拡大の最中の人間との、正直で真剣な関係を組み立てられるか、という姿勢だけなのではないか。
 頑固ジジイであることを自覚しつつ、もうしばらくこのコラムを書き続けてみようと、自分の身の回りに現れた、新しく小さい人たちを見ながら考えている。