幼稚園でみんなで飼っている金魚が、ある日突然話しかけてきたら、子どもたちは、どういう反応をするか、そっと見てみるというテレビ番組を、この前見た。さて、こういうとき、どうなると思いますか?。結果は、特に変わったことは何もおこらない、なの。金魚に話しかけられた子どもたちは、ごく普通に、まるで友だちに呼び止められたように返事をし、まったく普通に話しこみ、あとで「先生、金魚さんがお話ししたよ。」というだけなのね。

すごく小さかったころ、初めてチュウインガムをかんだときのことを覚えているだろうか。かんでいると、いつの間にか手を握りしめていたりするのね。かむだけで、飲み込んではいけない食べ物を、今、私は味わっているということが、何かとても大人のようで、うふふ、すごく、かっこうよいことしてる見たいに、ほかの人には見えてんだろうなあ、なんてことを考えたとたんに注意がそれて、ゴクッと飲み込んでしまったときの、どうしようもなく困った感じを、覚えているだろうか。僕は、ここしばらく忘れていた。
「ぼのぼの」というラッコの子どもが主人公の漫画で知られている、仙台在住の漫画家イガラシミキオさんが新しく出した「モイジイチャン」という本を見て、僕は、ここしばらく忘れていたあのころのことを少し思い出した。そう、すべてのモノと普通にお話ができ、すべてのコトが初めての体験だったころ、時間はごくゆっくりと僕たちの周りを回っていたのだった。
差別ではないかという非難を覚悟の上で、しかしどうなんだろう、子どもをていねいに観察しながら、そういうことをすぐに思い出すのは、どうも男の人の方が上手なのではないのかなあと、イガラシさんの後書きを読みながら考えた。