平成9年5月31日

 僕は、仙台市の川内にある宮城県の美術館で、教育担当学芸員という仕事をしている。学芸員って、毎日学芸会してる人のこと?とか、何で教育担当ってわざわざつくの?とか疑問を持つ人がいうかもしれないけれど、詳しくは、そのうちね。 で、僕の仕事を簡単にいえば、美術館に来る人たちの、さまざまな(絵を見る、描く、そしてそれにまつわる本当に広い範囲のさまざま)な質問や疑問の相談や問い合わせに、とにかくなんでも、まずはのりますよ、というものなのね。美術と美術館については、たいていの人が疑問の1つや2つ、必ず持っている。学校の図工で成績を付けられたけれど、ああいうことは本当にできるの?とかね。とにかく、どういう質問でも相談にのるわけです。そういうシステムというか係が、宮城県美術館にはあるのです。
 さて、そういう所に子どもたちが来ます。本当のことを言えば、僕は、子どものうちは、美術館に来なくてもいいぞ、と考えている人なのね。子どものときって、美術館に来る前に、やっておいたほうがいいこと、たくさんあるんじゃないの? 美術館に来て、なんだかわかんない現代美術ときちんと対峙できる大人になるために、子どものときにやっておくべきこと、それは何か。さ、それは何なのだ、答えなさい、と詰め寄る人がいたりするんだな、これが。
 いろいろ答えることはできるけれど、誰か他人の答えを聞く前に、僕としてはまず、彼らとよく相談し、彼らをよく観察することを勧めたい。彼ら自身が身体全体で何を言っているのか。まずその辺から、僕たちは彼らと話を始めるべきなのではないか。そんな、子どものいいなりになっていたんでは話になりませんよ、という態度の大人もいるけれど、さて、問題はどちらにあるのかなぁ。