平成9年2月22日

 田舎の方の山のふもとに住んでいる友人が、自分の家の前の田んぼを横切って、熊が山に入って行くのを見ていた経験を話してくれたことがある。熊は、歩きやすいとか道になっているとかとはまったく関係なく、行きたい所に向かって、まっすぐに歩いて行くのだそうだ。夏だったので、だいぶのびた稲が、風に吹かれたようにザワザワとまっすぐにかきわけられ、その先頭の所に、黒い塊に見える熊が、グイグイと進んでいったのだよ、と話していた。ううむ、かっこいいなぁ。 冬になっても、美術館には、子どもたちがたくさん来る。来て何か活動ということになれば、いつも言っているとおり、まずは美術館探検に出かけることになる。この探検は、ま一応、美術も少しは見るけれど、時間のほとんどは、子どものときの好奇心の持ち方の練習のような活動にあてられる。美術館の広い庭の隅々をうろつきまわるというのも、活動の大切な一部だ。
 この前、雪がたくさん降って、庭の植木が、すっかりうまってしまったときがあった。一面、雪の原になってしまった所を子どもたちと歩き回ると、彼らは、下に何があるか関係なしに、なにしろ行きたい所にまっすぐ行ってしまうことがわかる。表面上は、たいらになっていても、その下は、笹ややぶだったり、ツツジの植え込みだったりするわけだから、歩いて行くと突然ズボッと、足全部が埋まってしまう。子どもたちは、なにが起ったのか、一瞬わからなくなり、その後、カラカラと、雪まみれになりながら笑っている。熊は、あんまりズボッとならないような気がするけれど、多分こういうときも、いきたいところを目指してズンズンとまっすぐ歩いて行くのだろうな。ううむ、そうか、人間も、けっこうかっこいいもんだったんだなぁ。