平成8年10月26日

 団体で宮城県美術館に来た子どもたちは、まず、「美術館探検」をする。これは、簡単に言えば、施設見学で、美術作品も含めて、今日遊ぶフィールドを偵察、観察しておきましょう、という内容だ。この探検の最後あたりに、「トトロに会う練習をする道」というのがある。ううむ、このことは、本当は大人には、ないしょなんだよなぁ。大人の人はそっと読むこと。トトロは、あの「となりのトトロ」のトトロのことで、彼らに会うためには、草や木のトンネルの中を通りぬけ、苔むした、太い木の根元の大きな割れ目に飛び込むという、冷静に考えれば、けっこう大変な作業をこさなければいけないことになっている。あのお話の季節は、夏で、と言うことは、あのトンネルの中は、周りじゅう毛虫だらけ、虫だらけのはずだ。ね、それだけでも大変でしょう?だから、トトロに会いたい人は、日頃から練習しておいた方がいい。特に10歳以下の人。地震や火事のときの練習ももちろん大切だけれど、子どもにとって、いや、人間にとって、トトロに会いに行くための練習も、ほとんど同じに大切だと僕は思う。
 最近「さて、それではトトロに会いにいく練習をするぞ。」というと、そばに寄ってきて「トトロってお話だから、本当はいないんだよ。」とこっそり耳打ちしてくれる人がいるんだな。「君は何歳なの?。」「5歳。」「ううむ、あのな、いろいろなことを言う人がいると思うが、トトロって普通10歳ぐらいまでの人は会えるみたいだよ。ま、とにかくいつ会ってもいいように練習はしておいた方がいいんじゃないの。」。この答えを聞いたときの、ほっとして、続いてうれしさに輝く子どもの顔。この答えはうそなのだろうか。トトロを見なかった人たちが決めた答えだけが正しいわけではないことを、僕は伝えたい。