平成8年7月27日

 僕の若い友人から、仙台市のすぐ南隣にあるN市の駅前のギャラリーで展覧会をします、というお知らせのはがきが届いた。なるほど、それではこの次の休みの日に、歩いて行ってみようと、そのはがきを読みながら僕は考えました。 そう、展覧会もさることながら、僕にとって、N市までというのは、ちょっと長めのお散歩に、実に適当な距離なんですね。きちんと計ったわけではないけれど、たぶん、今僕の住んでいる所から20キロメートル前後。普通に歩いて、5時間ぐらい。朝8時に出かければ、昼ごはんを食べる時間を見ても、午後2時ぐらいにはなんとなく着いているかなぁ、の距離。郊外に住むようになって、かえって歩いて移動する機会が減ってしまっている僕には、これは良い機会です。
 と言っても、まなじりをけっして万全の準備をし、ねじり鉢巻きで出発だ、とかいうのでは、もちろんありません。ごく軽薄に出かけて、疲れたら休みつつ、しかしなんとなく歩き続けるうちに着いてしまうというような、本当にお散歩の長いやつ、というのが、僕の好みです。お財布さえ忘れてなければ、ま、あとはその場で何とかなるんじゃないの、日本語通じるんだし。
 のんびり、しかしきちんと歩いてみると、僕が普通に歩く早さは、よく言われている時速4キロメートルよりは、だいぶ速いことがわかる。相当のんびり歩いていると思っていても、時間は、僕を、思わぬところまで運んでゆくことにびっくりする。例えば20キロメートルという、普通なら乗り物などに頼ってしまう距離が、実は、思いもかけないほど簡単に到達してしまう距離であったことにびっくりする。そして、人間って結構ちゃんとした動物だったんだなぁ、ということがわかってくる。人間で良かったな。