平成8年4月27日

 上靴に驚いたのは、今年高校を卒業した娘が、小学校に入ったときだったろうか。子どもと大人との関係作りの基礎はお散歩にあると、僕は信じていて、そのために、歩くことの基本用具である靴については、子どもたちが小さい頃から注意を払ってきた。 近頃では、子ども用の靴も、きちんとしたものが増えてきているように思えるけれど、十数年前の日本の子ども靴事情は、ひどいものだった。子どものことを少しでいいから考えて作られている靴というものが、本当に少なかった。今だって、見かけが立派になって、値段が高くなっただけで、子どもの足とその使われ方を、きちんと考えて作られたものは、少ないのかもしれない。エアクッションの入ったスニーカーの一番小さいサイズを履いたときの子どもの笑顔は、今でもはっきり覚えている。ヘビーデュ−ティーとは何か、とか、しっかり考えるというのはどういうことか、ということを身体が理解した笑顔だった。
 だから、俗にバレエシューズと呼ばれているペナペナ底の上靴を履いてくださいと小学校で言われたときは、唖然としてしまった。一番身体の伸び盛りの時期、ほぼ毎日、少なくとも5時間から6時間、あのなんの保護機能もない薄っぺらな底の靴を履いて、コンクリートの床の上で暮す。こういうのって誰が考えついたんだ?、と思いましたね。今思えば日本の学校というシステムが、子どもたちをどの様に考えているのかを、この上靴は示していた。子どもなんてどんどん大きくなるんだから安いやつでいいのよ。
 その通り、彼らはどんどん大きくなる。だからこそその時期、大人は何を、誰の立場にたって、考えねばならないか。21世紀に向けて、基本を考え直す時期が来ていると、僕は思う。