平成7年10月28日

 街はいい天気だったのだけれど、仙台市内とは言え、川崎町との境目に近いこのあたりは、子どもたちが学校へ行くよりだいぶ早いこの時間だと、まだ、朝霧が上がっていない。金色にけむった小高い丘の中腹をぬって、舗装された広い2車線の道が、峠に向かって快適なカーブを描いて登っている。車は走っていない。ここを、モーターサイクルで、加速しつつ身体を左右に傾けながら駆け上がって行く。登りきると、広がる丘の連なりの向こうの薄曇りの空に、キラリと光る太陽があって、突然まわりの空気が暖かくなるのがわかる。ひゃっほう! ウィークデイの朝早く、僕は、新しくモーターサイクルを買った若い女性の友人の「ならし-最初の100キロくらいを注意深く走って、機械のなじみをとること」につきあって、今、この道を駆け上がってきた。もちろん「ならし」なので、そんなに速く走っているわけではない。ま、しかし、速さなんてごく相対的なものだから、ゆっくり走ったって、充分にライディングを楽しむことはできる。
 しばらく走った後、道路の脇の鎮守様の前で、ひと休みした。ヘルメットをとった彼女の顔はニコニコ顔で、この道は自動車でよく走ったことのある道だったのに、今日はまるで違う道のようだと話してくれた。うふふ、そこだな、問題は。
 天候を見極め、早起きをし、そして、新しいモーターサイクル。条件をきちんと整え、リラックスして頭をあげてみわたす。するとそこは、ふだんとまったく違った状況が出現する。そこは知っている。あそこは行ったことある。なるほど、しかしそれより、どんな状況で、どういう気持ちで。楽しむためには、こっちの方が大切だ。積極的に感じる姿勢が、身の回りの面白さを見つけ出す。