平成7年8月26日

 僕は、毎朝、10階にある僕の家から、建物の外側の非常階段を使って下まで降りる。この階段は、広瀬川をはさんで権現森に面していることもあって、ものすごい数の虫に、四季折々、出会うことができる。虫がいると、それを食べる鳥も来る。静かに動いてゆけば、踊り場を曲がったとたんに、気持ちよく鳴いていたひよどりと鉢合わせする、というようなこともおこって、飽きずに一年が過ぎる。 昨年、4階と2階の踊り場の天井に、たいへん立派な女郎蜘蛛が1匹ずつ、各々網を張っていて、僕は、4階の蜘蛛に「カミジョウ」2階のには「シモコウベ」という名前を付けて、毎日あいさつをすることにしていた。この名前は、子どもたちとの話の中で、どうせ付けるのなら、立派な感じがする方が良いと考えて、上と下をはっきりわかるようにする以外、深い意味もなく付けたのだから、同じ苗字の人はおこらないでね。
 昨年の冬以降、この蜘蛛たちの姿を見かけなくなったと思っていたら、今年の夏、彼らがいた天井には、数え切れないほどの小さい女郎蜘蛛が、いっぱい網をかけていた。夏も終わりのこの時期になると、結構でかくなったのも出てきて、ううむ、さすがの僕も、最近その下を通る時は、首をちぢめて少し急いでしまう。なにしろすごい数なのだ。
 こうしてある程度大きくなったのを観察してみると、おう、なんと、昨年のカミジョウやシモコウベに似たのが何匹かいる。うかつにここまで気がつかなかったけれど、そうか、君たちは彼らの子どもだったのか。
 カミジョウとシモコウベは、たくさんのチビ蜘蛛に姿を変えて、今ここにいる。昨日の夜、高校生の娘と、生き甲斐について話しあったけれど、ううむ、この蜘蛛たちなんかそういうこと何も考えていないんだろうけど、親も子供も、なんだか僕らより、ずっとすごいよなぁ。