平成7年6月24日

 美術を見るのも、僕の仕事の大切な一部なので、普通の人よりは、だいぶたくさんの絵や彫刻を、好き嫌いを問わず見ることになります。で、これまで見たのをざっと見渡してみて思うのは、絵って、けっこう歳をとってからでないとうまく描けないんだよな、ということなんだな。やっぱり、若いうちって、なんかいろんなこと、空回りしちゃってるみたいなところがあるからなんだろうか。 だからというわけではないけれど、僕は、どちらかというと早く「とっしょり(年より)」というものになったほうが、人生もっと面白そうだと思っていて、私自身が歳をとるのだと、という視点から「老人」に興味がある。ところが最近、どうも「老人」という言葉は、あまり評判が良くないようで、新しい呼び方をみんなで考えようと誰かが言っている。イメージが悪いということのようなのだけれど、いったいどこの、誰のイメージが悪いんだ?
 ことばを変えたって、イメージ自体が変わらなければ、実は何も変わらない。イメージはそのままに、その呼び方を変えてしまってうまくいったものって、どっかにあるのかなぁ。
 歳をとるということが、いつまでも若々しくいるということとは別に、だからこそ、たとえどういう風になったとしても素敵で面白いことであるという肯定的な老人のイメージがまずなければ、言葉なんか変わったって、たいしたことにはならないんじゃないだろうか。これまで大切に使われてきたことばそのままに、そこから思い起こされるものを点検しなおす作業。本当にすべきことは軽薄に呼び方を変えて、目先のごまかしに走るのではなく、そもそものイメージを明快にだして、なにを尊敬すべきなのかをしっかり見据える態度なのだと、僕は思う。