平成7年1月26日

 モーターサイクルのエンジンを止めて、丘の上からまっ白に光っている蔵王の山並をながめながら、僕は「そうか、鎖骨を折ったのは、もうおととしのことになってしまったのだなぁ。」ということを考えていた。いや、考えていた、のではなく、ハァハァゼイゼイ、息を鎮めていたのですよ、本当は。モーターサイクルで原っぱを走りまわるのって、けっこう疲れるもんなんです、やり様ですけど。 骨折のためにモーターサイクルに乗れずにいる間に、古い友人が病気で亡くなって、彼が大切にしていたスペイン製の優秀なトライアル用モーターサイクルを、僕が引き取ることになった。ただ、これが少し昔のやつで、ということは、車重がけっこう重いのだ。まだ扱いなれていないことも手伝って、だから、いつもより早く息が上がるのも、当然だとは言える。そのことを理由にして何ごともなかったように生活することも可能だけれど、僕は知っている。やっぱり、体力が落ちてるのよ。
 さまざまなしがらみにあちこちあやまりながら、しかし僕は、なんとか運動する時間をひねりだしてはいる。できるだけ歩くとか、風呂に入ったら腹筋をするとか、心がけてもいる。だいぶ前から、瞬発力に対する興味はやめにしたから、別に筋骨りゅうりゅうでいたいというのではなくて、持久力をコントロールしながら、自分の体力を歳相応プラスにしておきたいというだけなのだ。やっぱり楽しくモーターサイクルに乗りたいものね。
 モーターサイクルに乗るために運動をする。なにかをするために生活をきちんと組み立て、冷静に実行する。そうか、こういう生活を、モーターサイクルに乗らなくなるとしなくなって、そして、知らない間に、ゆっくりと心に脂肪がついてゆくのだな。