平成6年2月26日

 宮城県美術館では、子どもたちと一緒に「美術館探検」というのをよくやる。内容は、消防署のように美術館を見学してみるというものだというのは、前に書いたよね。この活動には、みんなで、廊下の壁にある大小さまざまな扉を開けて、中をのぞいてみるという作業がある。美術館のような公共の建物って、気をつけてみると、壁になにか怪しげな扉が、あっちこっちにたくさんあるでしょう?その中の幾つかを開けてみると、中は本当にいろいろで、へぇ、美術館って、こんなにたくさんの仕事の積み重ねで動いているんだ、ってことがわかってくるのね。 そういう、本当は開けてはいけなそうな扉を開けてみるときの、僕と子どもたちの会話。
 「いいか、こういう扉を開けるときには、まず、なにげなく、右を見て左を見て、誰も大人がいないというのを確認してから、そっと開けるんだぜ。」「齋さんも大人でしょ?」「あっ、お前するどいな。でもね、仲間の大人っていうのがいるんだよ。そのへんちゃんと判断しないとな。」
 それから、そっと中をのぞいて、小さく暗い部屋の中に丸いメーターを光らせて並んでいるパイプを見て、声もなく驚いてみたり、天井に上がっていく鉄の梯子の先はどこに続いているのか考えてみたり、ずらっと並んだ電気のスイッチを見て、あぁ、美術館も夜は電気を消すんだなってことを発見したりするわけね。
 大人になるためにはさ、幼稚園のころ、小学4年生の人に教えられたことなんてのも、すごく大切な情報なんだと思うんだよね。そういうのって、僕のころは「ちゃんとしたがき大将」ってのに教えられた。今は、誰がそういう文化を伝えてるのか、昔、子どもだった僕は、最近、ちょっと心配なんだけれどなぁ。