
「いいか、こういう扉を開けるときには、まず、なにげなく、右を見て左を見て、誰も大人がいないというのを確認してから、そっと開けるんだぜ。」「齋さんも大人でしょ?」「あっ、お前するどいな。でもね、仲間の大人っていうのがいるんだよ。そのへんちゃんと判断しないとな。」
それから、そっと中をのぞいて、小さく暗い部屋の中に丸いメーターを光らせて並んでいるパイプを見て、声もなく驚いてみたり、天井に上がっていく鉄の梯子の先はどこに続いているのか考えてみたり、ずらっと並んだ電気のスイッチを見て、あぁ、美術館も夜は電気を消すんだなってことを発見したりするわけね。
大人になるためにはさ、幼稚園のころ、小学4年生の人に教えられたことなんてのも、すごく大切な情報なんだと思うんだよね。そういうのって、僕のころは「ちゃんとしたがき大将」ってのに教えられた。今は、誰がそういう文化を伝えてるのか、昔、子どもだった僕は、最近、ちょっと心配なんだけれどなぁ。