いつも9月になると、ニューヨークに出発した日のことを思い出す。17年前の9月、僕は、留学するために羽田から飛行機に乗ったのだった。なにしろ、海外に行くというより、飛行機に乗ること自体が初めての経験で、もちろん緊張もしてはいたけれど、冒険心や、好奇心の方が圧倒的に大きくて、ハイジャックなんかで、どっか知らない空港に着いてしまうのもいいなあなんて本当に考えていたのだから、元気いっぱいだったんでしょうね。

ただ、その当時、もっとも運賃の安かったエアサイアムという航空会社だったためか、離陸時間になっても何もおこらず、その時間になって、カウンターに明日の朝にならないと飛行機は来ないというお知らせが、英語でピラリと張り出されただけというのには、ちょっとおどろきあわてましたね。ほかの搭乗者の人たちとともに、破れかぶれの英会話で、喧嘩腰の交渉をし、なんとか別の便に乗せてもらって、ロスアンジェルスからの乗り継ぎに間に合って、フウフウ、ハアハアというような話は、また別の話になってしまうけれど、なにしろ、こんな具合に僕の外国に対する経験は始まってしまったのです。でもそのときの僕が感じていたのは、ついニコニコしてしまうようなものすごい解放感と、僕は本当に何でもできるのだろうかという不安感とが混じった不思議な衝撃で、今思えば、それは一人でなにかをするという体験の始まりだったと思うのね。
僕は、多分18歳のころ、今のものの考え方の基本を見つけたような感じがしているのだけれど、その考えを、具体的に社会化してゆく作業は、この時から始まったんだな。うん、なるほど、アメリカでの3年間の毎日が、今でも昨日のように思い出せるのはそのためだったのか。