平成5年7月24日

 鎖骨を折ったことを口実に、しばらく自主的な運動を控えていたら、まあ、あっというまに脇腹から背中にかけて脂肪の帯がついてしまったのね。高校生以来ほとんど体重の変化が無くて、太れない体質だと思いこんでいたから、夜、風呂から上がった鏡の前で、少し感動してしまった。 僕は、もともと陸上競技の出身で、スポーツといえば「競争する」それしか知らなかった。美術を本気になってやり始めて、競争しない、いや、できない世界があることに気付いて、僕のやるスポーツは競争になってしまうものからはなれてきた。
 追いつかれたら、抜かせればいいんだという、ごくあたりまえのことに気付いて以来、僕は、自分の「体を育てる」作業(だから、すなわち「体育」ね)が、なんだかすごく自由にできるような気がしてきて、それ以来、ほとんど競争しなくなってしまった。で、競争をしないスポーツを楽しむのって、やってみると実は、結構難しい。よほどセルフコントロールの切り替えがうまくいかないと、かえってストレスが溜まってしまうんだよな。
 相手と競争しない分、自分との対話はシビアになって、ジョギングにしたって、泳ぎ続けるにしたって、ある時間のあいだじゅう、何を自分と対話するのかが、問われることになってくるんだな、これが。
 僕は、始めると、1時間ぐらい続けて泳いだりしてしまったりするのだけれど、あえて言おう、問題は体力ではない。こういうことって、なにか考えることがあれば、あとは疲れないようにゆっくりやればいいわけで、結構、頭脳労働なんだと思う。僕にとって、体育をしないことは、脳みそが腐ってくることなんだなあと、腹のまわりの脂肪を見ながら、今、考えている。