平成3年3月23日

 暖かくなってきたので、小さい子どもたちが、お母さんやお父さんといっしょに、美術館にやってくるようになりました。この前も、主夫をしている友人が、1歳3ヶ月の息子とともに、やって来ました。かわいいなぁ。ぽやぽやの髪の毛で、僕の食べていたおにぎりのかけらをあげたら、ニコニコ、モリモリと食べている。たべおえて、「アブ、アブ、アブ」とか騒いでいるので、僕は「もうだめだよ、僕の食べるのなくなるからね」とお話なんかしていたのね。彼はすごくご機嫌で、今度はお父さんの方を向いて、「アブ、アブ、アブ」と話しかけ始めたのだけれど、そうされると、まぁ、たいていのお父さんたちは、なんだかごちゃごちゃと顔を崩して、「アブ、アブ、アブ」なんて言ってしまうんだな、これが・・・・・・。
 もちろん彼は、「アブ、アブ、アブ」ということを話したいのではない。なにかちゃんとした話をしたいのだよ、多分。ちゃんとしたって、ちゃんと意識を伝えあうと言う意味で、ちゃんとした。
 彼らが、「アブ、アブ、アブ」と、何を伝えたがっているのか考えながら、ごく普通に、彼らに答えてゆく。わからないところは、彼らに聞けば良い。
 小さい頃のお父さんの絵は、大きい丸の中に、小さい三つの丸しか無いでしょう?あのころ、僕達の関心の中心は、お父さんの、目と口だけだったんだということが、そこから逆にわかってくる。
 だから、僕はきちんとお話したい。まだ、あまりうまく回らない舌で彼らがお話していることに耳を澄まし、それに、普通にお答えする。
 こんな感じに、割と、彼らの話しかけに、失礼なお答えをしているみたいなことって、案外多いんじゃないのかなぁ、どうだろうか。