平成2年5月26日

朝、僕の寝ている頭の上に座り込んで、お姉さんが妹の髪を結ってあげている。それはいい。しかし、もう大分長いあいだ、ああでもない、こうでもないとやっていて、本当のことをいうと、お父さんとしては、もういいかげんにしたらどうだいと言いたいところなのだがねぇ。でも、髪の毛をなでたり、なでられたりって気持ち良いもんなぁ、しょうがないのかもしれないなぁ。そう言えば、僕はここ2日、ひげをあたっていない。ちょっとザラザラになってきたなぁ。もともとひげが濃いという方ではないから、触ってみるとホヨホヨと手の平にあたる感じが何とも快感だ。「おおい、今日のお父さんのひげ、ちょうど気持ち良いぞ、触ってみるかい」。彼らは僕のあごをくすぐったいくすぐったいと言いながらなぜ、僕は、彼らのホコホコのほっぺたのスベスベさを楽しむ。いったい何がはいってるんだろうねぇ、君たちのそのピンクのほっぺたの中には。
 美術館に子どもたちがきて粘土遊びをする日、僕はわざとひげボウボウででかけて行ってお話をする。ほらこれが、ザラザラっていうやつで、そして、君たちのほっぺたが、スベスベっていうものなのよ。今度お父さんがひげ剃る前に、ちゃんと触らせてもらうといいと思うな。無理矢理ゴシゴシ、痛いだろうってんじゃなくて、そぉっと、ちゃんとね。
 そうして、あなたのほっぺた。何とまぁポヨポヨと丸いのだろう。世界中の子どもたちが、と言うことは、少し前まで子どもだった世界中の大人たちもやっぱり、みんなこんなほっぺたを持っているなんて、人間もなかなか捨てたもんではないな。かわいくない人間って、ほんとはいないんだと思うなぁ。問題は、だから、その中味なんだよね。
 さて、君たち、そろそろでかける時間のようですよ。